鹿児島地方裁判所 平成11年(行ウ)21号 判決 2000年9月22日
主文
一 本件各訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告鹿児島県は、鹿児島県海砂採取要綱八条一項(2)号の規制を廃止し、取り消せ。
二 被告鹿児島県は、鹿児島県一般海浜地等管理規則四条(2)号の規定に基づき別記第二号様式として準拠した添付図書等のうち、「利害関係人の同意書」についての項目を取り消し、「利害関係人の同意書は、鹿児島県海砂採取要綱八条一項(1)号の関係とする。」との項目に特定し、掲示せよ。
三 被告鹿児島県指宿土木事務所長は、平成一一年七月二一日付け「指土第七八号」の原告に対する一般海浜地等土石(砂)採取不許可処分を取消し、許可せよ。
四 被告鹿児島県加世田土木事務所長は、平成一一年七月二一日付け「世土第一二七号」の原告に対する一般海浜地等土石(砂)採取不許可処分を取消し、許可せよ。
第二事案の概要
一 事案の要旨
本件は、原告が、平成一一年三月二日付けで鹿児島県知事宛て国有財産法一八条三項に基づく各一般海浜地等土石(砂)採取許可申請(以下「本件各申請」という。)をなしたところ、鹿児島県知事から委任を受けた被告鹿児島県指宿土木事務所長及び同鹿児島県加世田土木事務所長(以下「被告各土木事務所長」という。)により、鹿児島県一般海浜地等管理規則(以下「本件規則」という。)及び鹿児島県海砂採取要綱(以下「本件要綱」という。)所定の要件を満たしていないとして、平成一一年七月二一日付けでそれぞれ不許可決定(「指土第七八号」、「世土第一二七号」以下、まとめて「本件各不許可決定」という。)を受けたことから、被告各土木事務所長に対し、右各不許可決定の取消及び右申請に対する許可を求めるとともに、被告鹿児島県に対し、本件要綱八条一項(2)号の規制の廃止ないし取消並びに本件規則四条(2)号の規定に基づき別記第二号様式として準拠した添付図書のうち、「利害関係人の同意書」についての項目の取消等を求める行政訴訟である。
二 前提となる事実(次の事実は当事者間に争いのない事実か、又は、証拠上容易に認められる事実[この場合には採用証拠を括弧に掲げた。]である。)
1 原告は、鹿児島県知事の認可を受けた海砂及び陸砂の採取販売及びこれに附帯する事業を目的とする協業組合である(弁論の全趣旨)。
2(一) 原告は、平成一一年三月二日、海砂採取の目的で鹿児島県知事宛に、国有財産法一八条三項に基づき、川辺郡知覧町松ヶ浦の松ヶ浦漁港沖と揖宿郡穎娃町石垣の穎娃漁港沖を結ぶ九平方キロメートルの区域の一般海浜地等土石(砂)採取許可申請書(海底)(以下「申請①」という。)並びに同松ヶ浦漁港沖先の一三・九平方キロメートルの区域の一般海浜地等土石(砂)採取許可申請書(海底)(以下「申請②」という。)を提出するとともに、右各区域についてそれぞれ砂利採取法一六条に基づく採取計画認可申請書を提出した。(甲一の一ないし4)
(二) これに対し、被告鹿児島県指宿土木事務所長は、同年三月八日、申請①につき、本件規則四条に定める市町村長の意見書及び利害関係人の同意書を提出するよう補正を促し、また、採取計画認可申請につき、本件要綱八条一項(2)号に基づく鹿児島県漁業協同組合連合会代表理事会長(以下「県漁連会長」という。)の承諾書の提出及び同要綱八条三項に定める所属砂利採取協同組合の経由手続を行うよう補正を促したが、原告は右補正は法的根拠がないとしてこれに応じなかった。(甲三の1、2、5、7、9、四の2)
被告鹿児島県加世田土木事務所長は、右同日、申請②につき、右申請①に対するものと同様の補正を求めるとともに、採取計画認可申請についても同様に、県漁連会長の承諾書の提出を求めたが、原告は前記同様法的根拠がないとしてこれに応じなかった。(甲三の3、4、6、8、10、四の1)
3 被告鹿児島県指宿土木事務所長は、平成一一年七月二一日、申請①について、(1)本件要綱三条に基づく採取資格がないこと、(2)本件規則四条(2)号に定める利害関係人たる県漁連会長の同意書が添付されていないこと、(3)採取地域の関係町長の同意が得られなかったことを理由に、右申請を不許可とするとともに、申請①が不許可とされる以上、採取計画に従った採取は実施することができないとして、採取計画認可申請についても不認可とした。(甲二の1、2)
被告鹿児島県加世田土木事務所長は、右同日、申請②について、(1)本件規則四条(2)号に定める利害関係人たる県漁連会長の同意書が添付されていないこと、(2)採取地域の関係市長及び町長の同意が得られなかったことを理由に、右申請を不許可とするとともに、前記と同一の理由によって、採取計画認可申請を不認可とした。(甲二の3、4)
三 当事者の主張
1 原告の主張本件各不許可決定の行政処分性について
行政財産は、国の行政目的のため、国が直接使用するのが原則であるが、一定の場合には、国以外の者に使用又は収益させることができるとされており、それに基づき国有財産法一八条三項では、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用又は収益を許可することが認められている。そして、行政財産の使用又は収益の許可は行政処分であり、行政不服審査法及び行政手続法の対象になる。
(二) 本件要綱八条一項(2)号について
本件要綱八条一項(2)号は、砂利採取法一六条の規定に基づく認可申請書には、漁業権区域外の採取にあっては、県漁連会長の承諾書を添付すべきことを定めているが、右規定は、県漁連会長の承諾書がなければ、海砂採取業者の漁業権区域外の事業活動を不可能とするもので、県漁連会長朱套権限を与えるものであり、被告鹿児島県の裁量権において重大かつ明白な瑕疵に基づき規制したもので、行政権の濫用であり、砂利採取法、憲法一四条及び同法二二条に違反する。
すなわち、漁業権区域外は、漁業法六条に基づく定置漁業権、区画漁業権及び共同漁業権等の営業許可権利は存在せず、また、水産資源保護法一四条(保護水面の定義)に基づく指定区域ではないことから、同法一八条(工事の制限等)一項に該当せず、同条四項の規定による許可等は必要としない。
したがって、本件要綱八条一項(2)号の規定を遵守したとすれば、漁業権区域外水域である領海法の一二海里及び我が国の漁業水域距離として定めた二〇〇海里までの海域に及ぶことになり、同規定に基づく規制は、権利の濫用である。
(三) 本件規則四条(2)号について
本件規則は、国の法令に違反し、無効であり、本件規則四条(2)号に基づいて別記第二号様式として準拠した添付書類のうち「利害関係人の同意書」を要求することは、機関委任事務管理者としての権限を逸脱した公権力の濫用である。
(四) 本件各不許可決定の違法性、違憲性
本件各不許可決定は、本件規則四条(2)号によって必要とされる添付書類のうちの「利害関係人の同意書」として、本件要綱八条一項(2)号によって必要とされる県漁連会長の承諾書が添付されていないことを理由とするものであるが、前記のとおり、本件規則及び本件要綱は、違法、違憲であり、本件規則及び本件要綱に反することを理由とする本件各不許可決定も違法、違憲である。
なお、本件規則四条(2)号によって必要とされる「市町村長の意見書」については、本件要綱八条二項によって「土木事務所等の長は、漁業権区域外の採取に係る申請書を受理したときは、関係市町村長及び採取海域を管轄する海上保安部長に意見を求めるものとする。」とされているので、原告が関係市町村長に意見を求めることは必要ではない。
2 被告鹿児島県の主張(本案前)
行政事件訴訟法三条二項に定める「処分の取消しの訴え」の「処分」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為で、同条三項に定める裁決、決定その他の行為を除くものとされており、「行政庁の処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が法令の規定に基づいて行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうとされるところ、本件要綱は、被告鹿児島県における国有財産である海砂採取に関し必要な事項について鹿児島県知事が定めた指針であり、また、本件規則は、国有財産法三条二項に規定する公共用財産である海浜地及び海底の土地の使用又は収益の許可について鹿児島県知事が地方自治法一五条一項に基づいて定めた規則であり、これらは、国有財産の使用又は収益及び海砂採取の許可について基本となる事項を一般的抽象的に定めるに過ぎないものであって、特定の個人を対象としてなされるものではなく、個人の法律上の地位ないし権利義務に影響を与えるような性質のものではなく、取消訴訟の対象となる処分には当たらない。
よって、原告の被告鹿児島県に対する本件要綱や本件規則に基づく規制の廃止等を求める訴えは、いずれも不適法である。
3 被告各土木事務所長の主張
(一) 本件各不許可決定の行政処分性(本案前)
行政事件訴訟法三条二項に定める「処分の取消しの訴え」の「処分」については、前記2記載のとおりであるところ、原告の本件各申請は、海岸法三条に定める海岸保全区域以外の海浜地(以下「法定外公共用財産」という。)における土石(砂)の採取のために国有財産法一八条三項の規定に基づき行政財産である土地の使用許可を求めるものであるが、法定外公共用財産については、私人が自己のためにこれを使用又は収益し得る法的地位にはなく、たとえ、使用又は収益が許可されなかったとしても、不許可の前後で私人の法律上の利益に何ら変化はない。また、国有財産法その他の法令中に使用又は収益を希望する者に申請権を認めた規定はないから、本件各申請に対し本件各不許可決定がされたからといって、原告に侵害された法律上の利益はない。
したがって、本件各不許可決定は、行政事件訴訟法三条二項に定める取消訴訟の対象となる処分に該当せず、その取消を求める訴えは不適法である。
(二) 義務づけ訴訟について(本案前)
法定外抗告訴訟における義務づけ訴訟は、仮に認めるとしても、極めて限定的な場合にのみ認められ、①行政庁が当該行政処分をなすべきこと又はなさざるべきことについて法律上羅束されており、行政庁に裁量の余地が全く残されていないために、第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要ではないと認められ、②事前審査を認めないことにより損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であり、③他に適切な救済方法がないことを要すると解される。
原告が被告各土木事務所長に対し国有財産法一八条三項に基づく土地の使用許可を求める請求は、国有財産の目的外使用を許可するという行政行為を求めるものであるところ、少なくとも、国有財産法上、被告各土木事務所長が同法一八条三項に基づく使用許可処分をなすべきことについて法律上覇束されていると解することはできず、右各行政庁が許可処分を行うについて裁量権を有することは否定できず、本件各申請に対する許可を求める訴えは不適法として却下を免れない。
(三) 本件各不許可決定の適法性(本案)
被告各土木事務所所長は、本件各申請に対し、原告が本件要綱三条に定める採取資格を欠くこと(ただし、被告鹿児島県指宿土木事務所長に対する申請①について)、本件規則四条(2)号に定める利害関係人たる県漁連会長の同意書が添付されていないこと、被告各土木事務所長において関係市町長の意見を求めたところ、同意を得られなかったことなどを理由に、これを不許可とした。
本件規則四条(2)号が添付図書として市町村長の意見書を要求したのは、公共用財産である海浜地及び海底の使用収益は、その所在する地域住民の生活と密接な関係を有することから、当該所在地の市町村長の意見を徴しているものである。また、利害関係人の同意書は、他の産業に対する影響を考慮して許可の可否を判断する必要があるため、添付図書に指定されたものである。
また、本件要綱八条によれは、漁業権区域内の海砂採取にあっては採取区域に漁業権を有している漁業協同組合の長を、また、漁業権区域外の採取にあっては、操業形態の異なる複数の漁業者が操業する海域であり、漁業関係者の広域的な調整を要することから県漁連会長を、それぞれ水産業者の代表者として、利害関係人として扱っている。漁業権は、定着性のある水産動植物を目的とする漁業や移動しない漁具を使用した漁業等を営むものであるが、漁業権の設定区域外においても、ハエ網漁、曳き網漁などの各種漁業が営まれている。したがって、砂利の採取にあたっては、これら漁業者との利害の調節が必要となるため、本件要綱は、漁業権区域の内外を問わず、利害関係人の範囲を定めて同意書を得るべきことにしたのであって、右のような取扱いには合理的理由がある。
なお、砂利の採取が許可されない以上、原告には採取権原がなく、採取計画は実施できないことに帰し、実施不可能な採取計画を認可することは無意味であるから、原告の砂利採取法一六条に基づく採取計画認可についても不認可とした。
被告各土木事務所長の右措置は、いずれも、国有財産法、砂利採取法及びこれに基づいて定められた本件規則、本件要綱等の関連法規に基づき適正に行ったものであり、もとより適法である。
第三当裁判所の判断
一 原告の被告鹿児島県に対する訴えについて
原告は、被告鹿児島県に対し、本件要綱八条一項(2)号の規定及び本件規則四条(2)号に基づいて定められた別記第二号様式中の添付図書のうち「利害関係人の同意書」の項目が、憲法あるいは法令に違反し無効であるとして、その規制の取消しを求めている。
しかしながら、行政事件訴訟法三条二項に定める「処分の取消しの訴え」の「処分」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為で、同条三項に定める裁決、決定その他の行為を除くものとされており、「行政庁の処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうとされるところ(最判昭和三〇年二月二四日民集九巻二号二一七頁、最判昭和三九年一〇月二九日民集一八巻八号一八〇九頁)、本件要綱八条一項(2)号は、砂利採取法一六条の規定に基づく認可申請に際し、漁業権区域外の採取に関しては県漁連会長の承諾書を要することを鹿児島県知事において定めた指導要綱であり、また、本件規則四条(2)号の別記第二号様式は、国有財産法一八条三項に基づく一般海浜地等の土石(砂)採取申請に関し利害関係人の同意書を必要とすることを定めた規則(法規命令)であるが、前者については抽象的一般的な指針を定めたものにすぎず、後者については抽象的一般的な基準ないし規範を定めたものであり、いずれも行政主体と個人との間に個別具体的な権利義務ないしは法律的利益の変動を及ぼすものとは解されず、行政事件訴訟法三条二項に定める「処分」に当たらないことは明らかであり、原告の被告鹿児島県に対する訴えは不適法であり、却下を免れない。
なお、原告は、請求の趣旨第二項において、「『利害関係人の同意書は、鹿児島県海砂採取要綱八条一項(1)号の関係とする。』との項目に特定し、掲示せよ。」とし、被告鹿児島県に対し、規則の制定を義務づけるかのような請求をしているが、このような抽象的一般的規則の制定を義務づけるような法定外抗告訴訟はおよそ不適法であり、却下を免れない。
二 原告の被告各土木事務所長に対する訴えについて
(一) 本件各不許可決定の取消請求について
(1) 本件各不許可決定の行政処分性について
原告の本件各申請は、海岸法三条に定める海岸保全区域以外の海浜地における土石(砂)の採取のために国有財産法一八条三項の規定に基づき行政財産である土地の使用許可を求めるものである。
ところで、国有財産法一八条一項本文は、行政財産について私権の設定によって使用又は収益させることを原則的に禁止する旨規定しているが、これは、行政財産が国の行政目的を遂行するための物的手段であることにかんがみ、行政財産の本来の用途又は目的が阻害されることを防止しているものと解される。一方で、同条三項は、「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。」と定めているが、これは、国有財産の効率的利用の見地、あるいは、使用又は収益によって行政財産自体の効用が増す場合等のあくまで例外的場合に使用又は収益の許可をすることができると定めたものと解するのが相当であり、同項によって、許可申請者に対し、当該行政財産を使用することのできる実体法上の権利や法的利益を与えたものと解することはできない。また、国有財産法及びその他の法令上、行政財産の使用許可の申請権がある旨定めた明文の規定やあるいはそれを前提とした手続的規定も存しないところである。
したがって、本件不許可決定は、これによって原告の権利義務ないし法律上の利益に何ら影響を与えるものでばないから、取消訴訟の対象となる行政処分には当たらない。なお、使用許可処分は、行政処分に当たると解されるが、そのことによって、右判断が左右されるものではない。
よって、本件各不許可決定の取消しを求める訴えは、不適法であり、却下を免れない。
(2) 本件各不許可決定の適法性について
(ア) 原告は、被告鹿児島県指宿土木事務所長が、①原告が本件要綱三条に定める採取資格を欠くこと、②本件規則四条(2)号に定める利害関係人の同意書が添付されていないこと、③被告各土木事務所長において関係市町長の意見を求めたところ、同意を得られなかったことを理由に、また、被告鹿児島県加世田土木事務所長は、前記②、③の理由により、いずれも、本件各申請を不許可としたことについて、違憲、違法である旨主張するので、なお、念のため、判断する。
(イ) 本件規則は、建設省所管国有財産取扱規則三条及び地方自治法一五条に基づいて、国有財産法三条二項に規定する公共用財産である海浜地及び海底の土地のうち、砂防法、漁業法等の区域外にある土地(一般海浜地等)の管理に関する取扱事務を定めたものであり、本件要綱は、国土及び環境の保全を図りながら骨材資源としての海砂を適正かつ円滑に供給することを目的として定められた指導要綱である。
そして、本件規則四条は、国有財産法八条三項に基づく一般海浜地等の使用収益許可の申請手続に際し、一般海浜地等土石(砂)採取許可申請書(別記第二号様式)に、利害関係人の同意書と市町村長の意見書を添付することを義務づけており、右利害関係人としては、本件要綱八条一項(2)号に従い、漁業権区域外の採取にあっては県漁連会長を利害関係人とする取扱いとしている。
そこで、右規則の規定及び県漁連会長を利害関係人とする右取扱いの是非について検討するに、市町村長の意見書については、公共用財産である海浜地等の使用又は収益がその所在する地域住民の生活と密接な関係を有することから当該所在地の市町村長の意見を徴することとしたものであり、利害関係人の同意書については、当該一般海浜地等に利害関係を有する他の産業に対する影響を考慮して規定されたものであって、砂利採取については、漁業者が大きな利害を有しているところ、漁業権区域外においては、操業形態の異なる複数の漁業者が操業していることから、広域的な調整を行うべく、県漁連会長を水産漁業者の代表者として、その同意書を必要とする取扱いとしているものであって、右規定及び取扱いは、専ら、公共用財産である一般海浜地等に利害関係を有する各種事業者・地域住民の利害調整を図るという目的に出たものであり、合理性を有するということができるのであって、公共用財産としての用途又は目的を妨げない限りにおいて国有財産の効率的利用を図るという国有財産法一八条三項の趣旨に適うものであって、また、許可申請者に過重な手続や取扱いを強いるものでもない。
したがって、本件規則四条(2)号に定める利害関係人の同意書が添付されていないこと、また、被告各土木事務所長において関係市町長の意見を求めたところ、同意を得られなかったことを理由とする本件各不許可決定は何ら違法・違憲ではなく、原告の主張は失当である。
なお、本件要綱八条一項(2)号は、砂利採取法一六条の採取計画の認可に関する手続を定めたものであるが、国有財産法一八条三項の使用許可手続と連動させ、本件規則四条(2)号で同意書の添付を求める「利害関係人」を、本件要綱八条一項(2)号の指針に基づいて、漁業権区域外の採取については県漁連会長としたものであって、その取扱いは、前記判示のとおり、国有財産法の趣旨に適ったものであり、不合理な取扱いということはできない。
(ウ) 本件要綱三条は、一般海浜地等のうち海底の土地に賦存(骨材資源として存在)する砂の採取資格要件を、①鹿児島湾及びその周辺海域においては、鹿児島海砂採取協同組合又は当該組合の組合員、②吹上浜海域においては、鹿児島県西部砂採取協同組合又は当該組合の組合員、③前各号に掲げる海域以外の海域においては、原則として各土木事務所等単位に海砂の採取を目的として設立された中小企業等協同組合法に規定する事業協同組合若しくは当該組合の組合員又は中小企業団体の組織に関する法律に規定する協業組合と定め、資格要件を限定しているが、これは、過去に採取業者による不法採取が多発したことから、一定の海域ごとに採取業者の共同化を図り、協同組合等を通じた自主規制によって海砂採取の適正化を図る目的に出たものであり、国有財産法一八条三項の趣旨に則り、公共用財産の用途又は目的を妨げることを防止するためにされた規制であり、また、その規制の程度も不合理なものとまでいうことはできない。
したがって、被告鹿児島県指宿土木事務所長が、原告について本件要綱三条所定の要件を満たさないとして、本件申請①を不許可としたことにも何ら違法な点は存しない。
(二) 本件各申請に対する許可を求める訴えについて
原告の右訴えは国有財産法一八条三項に基づいて、国有財産の目的外使用を許可せよという行政行為を求めるものであり、行政庁に対するいわゆる義務づけ訴訟と解されないでもないことから検討するに、義務づけ訴訟が認められる要件としては、前記第二、三、3、(二)の前段のとおりであると解されるところ、義務づけ訴訟のような法定外抗告訴訟が許される根拠ないし要件について原告は全く明らかにしておらず、加えて、国有財産法一八条三項は、前記のとおり、国有財産の効率的利用等の見地から行政財産の用途又は目的を妨げない限度において例外的に使用又は収益の許可をすることができるとしたものであって、右許可を行うか否かは、個々の具体的な場合に即して行政庁の一定の合理的な裁量に基づいて判断されるべきであり、これが法律上羅束されているとか、あるいは、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていない行為であるということはできないし、また、原告は、現に本訴において本件各不許可処分の取消しを求めているのであるから、義務づけ訴訟によって救済を求める必要性はないといわざるを得ない。
したがって、原告の本件各申請を許可せよとする訴えは不適法であり、却下を免れない。
三 以上によれば、原告の被告らに対する訴えは、いずれも不適法であるから、却下することとする。
(裁判長裁判官 吉田肇 裁判官 小田島靖人 裁判官 澤田忠之)